Baltic Tricompax Tour Auto 2024

Baltic

Balticには現状大きく分けて6つのラインがある。

  • HMS(ツール寄りドレスウォッチ)
  • Hermétique Tourer(フィールドウォッチ)
  • Aquascaphe(ダイバーズウォッチ)
  • MR01(ドレスウォッチ)
  • Bicompax(ドレス寄りツーカウンタークロノ)
  • Tricompax(スポーツ寄りスリーカウンタークロノ)

この中で唯一全く興味が無かったのがスポーティクロノのTricompaxだった。

理由はいくつかある。

第一にスリーカウンターのスポーツ系クロノは何本か他ブランドで持っている。

次に、というか、これが一番大きな理由だけど「デザインが好きではない」。
ロレックスの有名なヴィンテージモデルを模したものであることが、ロレックスとヴィンテージどちらにも興味が無い自分にすら分かる。コピーではなくオマージュなので、形状を完コピして銘だけ変えたようなものとは違う。ただ、オマージュ度がかなり高い気がする。
自分は基本的に「○○っぽい」と感じられる時計は好きではない。よってTricompaxは完全に眼中になかった。

だから今回のTour Auto(フランス国内を縦断する車のラリーイベント)限定が発表される前、ティーザーの段階でTricompaxベースっぽいと分かったときから興味を失っていた。

それがフタを開けてみたら! 色々な連想を生むパンダ・逆パンダダイヤルではなく白一色(正確にはクリーム色の地に白のインナーサークル)の文字盤。深い紺のベゼル。とても現代的でクリーンなクロノに仕上がっている。

その感動冷めやらぬタイミングでたまたまご紹介を戴き、いつもBalticを買っているお店で国内正規品を買うことができた。

正直本国サイトから買うことも考えていたのでとてもありがたかった。
今この時期に海外通販をするのは気が重い。円安がね…。
元の金額がそこまで大きくないので円安といっても数万円あがるだけなんだけど、なんとなく損をした気分になる。

純粋な金額だけでみたら、お店の利益を乗せるのだから日本で代理店から買う方が高くなるのは当たり前。でも実機を見て検討可能で国内保証が付いているという利点があるし、これまでのお付き合いもあるから、日本のお店で買えるならそれに越したことはない。

問題はいくら高くなるか。

答えは「日本で代理店から買う方が本国サイトより安い」!

計算して驚いた。直近の急激な円安のせいなんだろうけど、なんともすごいことに…。そもそもブランドの直販は中間流通を省いて値段を下げているわけで、それよりも安いとかもう…。

近年のすさまじい海外旅行客の増加も納得がいく。これは日本に来るわ。

ケース

直径40mm、縦の長さ47.5mm、厚さ14mm。
公式サイトの記述とはちょっと違うけど全て実測。
タキメーターベゼルが本体より張り出しているのでその分大きい。ケース部分だけだと38mmだった。

サファイア風防でさらにクロノグラフなので重みは結構ある。ただ裏蓋がクローズドなのもあってラグ穴の位置が低く、腕に乗せても比較的低重心で振り回されづらい。

この時計は限定品といっても文字盤とベゼル以外通常品と同様なので他に語ることはとくにない。

そういえば驚いたことが一つ。
裏蓋がすごく傷つきやすい! 
ちょっとざらついた仕上げのテーブルに置いて軽く動かしたら、それだけでガッツリ傷が入った。普段サファイアのシースルーバックが多いからあまり気にしていなかったけど、購入2日目にしてすごいことになった。

ムーブメント

ムーブメントはセリタのSW510M。定番のSW500から自動巻き機構を取っ払った手巻き。これは通常品と変わらず。

クロノグラフの手巻きは巻くときの感覚が微妙な物が多い。
というのも上下のプッシュボタンが邪魔をしてリューズだけを掴むことができない場合があるから。自分の手持ちではスピードマスタープロと321、とくにプロの方が巻きづらい。あと、巻き上げの感覚が重いこともある。321は比較的マシだけどプロは結構しんどい重さ。

幸いなことにTricompaxにはその辺りの心配がない。
リューズだけを摘まんで気持ちよく回せる。カチカチというクリック音とともに。軽く。
しかもパワーリザーブは63時間。機械の美しさを犠牲にして機能性をとったムーブメント。
正直見てもあまり面白くないのでクローズドバックにして正解だと思う。

自動巻きのSW500は何本か持っているけど手巻き版は初めてだった。
所有してみて、結果とても満足している。適材適所。

文字盤

もうこの項目を書くためだけに記事を作ったといっても過言ではない。

とにかく良い。

何が良いかといえば、Très français !(とてもフランスっぽい)

上品なベージュ(写真ではちょっとざらついて見えるけど現物は滑らか)の上に青・赤・白のトリコロール。そこにさらに「水色」!。これがよい。

手っ取り早くフランスっぽさを出すならシンプルに青・赤・白をぶち込んでおけばいい。
どことは言わないが、フランスブランドの中にはそういうデザインの限定版を出すところもある。
でも、自分はあまり好きになれない。
なぜかと考えてみると、それは立場を入れ替えてみれば、空港の売店とかに並んでいる日の丸や旭日旗をそのまま描いた安い小物類なんだ。観光客向けのお土産。

旅行の(手軽な)お土産ならば「○○国に行った」という記憶を引き出すトリガーになることが最重要だから、分かりやすく国旗カラーはありだと思う。
でも、時計は長く使う日用品で金額もそこそこする。トリガーとしての役割だけではちょっと物足りない。
その国を表す記号としてだけではなく、その国の持つ雰囲気や文化を見せて欲しい。
つまり「うまく料理して欲しい」。

この点において今回のTour Auto 2024限定は完璧だと思う。

少しポップで少しエレガント。なんというか、角の取れた余裕のある雰囲気。カッコよくも可愛くもない絶妙のライン。
Tour Autoのイメージカラーであるという水色が図らずもいい仕事をしてくれている。

最後に針とクリアランスについても触れておく。
クロノグラフに関わる針はすべてブルースチールの剣形に統一されている。特に太くて大きいメイン針がぐいぐい回る様が勇ましい。
クリアランスはドームサファイア風防と相まって全然気にならない。このあたりは買う前に現物を見られたので安心だった。

ブレスとストラップ

いつものフラットリンクブレスがデフォルトで付いている。
Hermétique Glacierの記事で色々書いたのでそちらを読んで欲しい。

ここではセットのおまけで付いてくるアルカンターラストラップについて書きたい。

12時側75mm、6時側110mm。最短穴までの距離は45mm。穴のピッチは5mm。
サイズは文句なし。

表面はヌバックレザーとほぼ同じ。手触りも微起毛でほぼ同様。芯が入っていないのでとても柔らかくすぐに腕に沿う。こういう微起毛のストラップはホコリが絡みやすいのが面倒くさいところだけど、今のところ払えばすぐに落ちる。サラッとしている。

そして何よりも色がいい。
深い深い、黒と紙一重の紺。ベゼル色と合わせて統一感がある。この色に微起毛が合わさると、スポーツに寄りすぎずフォーマルに寄りすぎずヴィンテージにも寄りすぎない不思議なニュアンスが出る。
この中間な感じはこの時計の性格そのものだと思う。

通常品はどこからどう見ても「ヴィンテージ・スポーツ」だった。このTour Autoはその二つの要素どちらからも微妙にずれている。そこが素晴らしい。

付属品

Tour Autoの限定だけあって、車のダッシュボードに付けられるクロックが二つ付いてくる。一つはストップウォッチ(ハンハルト製ムーブ)、もう一つは時計(シーガル製ムーブ)。

とてもカッコいいし質感も高い。でも自分の車には付けるスペースがない。まだ液晶モニターが普及していなかった2010年頃までのスポーツカーに付けたら雰囲気が出そうな感じではある。

インスタを見ていると公式に「このダッシュボードクロックを抜いて安く出して」とコメントしている人もいた。一理ある。
公式の返答は「ダッシュボードクロックだけ売れば?」だった。

箱はやたらと巨大。おまけに革張り(合皮?)。

正直邪魔だけど、限定品の気分を盛り上げるためにはしょうがない。

まとめ

たぶんこの時計は人気出ない。

だってTricompaxの従来の顧客層が求めるものから外れている。
モダンでクリーンで、ヴィンテージの有名時計オマージュらしさがそぎ落とされている。

「我々はポールニューマンの秀逸なオマージュが欲しいんだ!モダンでクリーンなクロノグラフが欲しければ他のブランドでもっといいやつを買うよ」
そう思われるかもしれない。

このブログで何度も書いてきたことだけど、自分が「○○っぽい時計」が好きではないのは完全に個人の趣味に過ぎない。だからオマージュ云々については特に言うことがない。

ただ、モダンでクリーンなクロノグラフってそんなに多くはない気がする。
42mmで自動巻きで、と現代の一般的なスペックのものならたくさんあるだろう。
でも、このサイズ(40mm以下)で手巻きとなるとなかなかない。そしてフランスブランドという条件を付け加えると、たぶんこれしかない。そもそも40mm以下と手巻きという条件自体が「モダン」から外れるのだから当然だと思う。

40mm以下の手巻きスリーカウンター、手持ちの2本

だからこそ、相反する条件を備えたこの時計が自分は好きだ。

ファンが求めるものは完璧に分かっていて、これまでそれに応えてきたけれど、今回は「ちょっとズレた」ものを出しちゃった。Balticのそういうところが好きだ。そして、その「ズレ」が自分の嗜好に完全にマッチした。

40mm以下で手巻きで、サファイア風防で、信頼性の高いムーブで、ブレスもストラップも使えて、(自分が考える)フランスっぽさマックスのデザインで、フランスブランド。しかも安い。

個人的好みの全部乗せみたいな時計だなとしみじみ思う。これだからBalticはやめられない。

(あとは日付さえ付いていれば完璧だった…)。

Baltic Tricompax39.5mm(公称)とBicompax36mm

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