Baltic Aquascaphe Japan Limited

Baltic

フランスブランドのダイバーをずっと探していた。

取りあえずブレゲを見る。無し。
海に関わるラインナップといえばマリーンだけど、あれはどこからどう見てもダイバーではない。スポーティーになったクラシック。現代のカテゴライズではラグスポ。では回転ベゼル付きのTypeXXI(廃番)はといえば、あれは明らかにパイロットウォッチの色が濃い。

次にチェックしたのはカルティエ。確かにダイバーはあったけど、こちらもあえなく廃番。

次に…、といけないのがフランス時計。フランス系のメジャーどころは以上で終了。スイスならロレックスを筆頭にブランパン、ユリス・ナルダン、ブライトリング、IWCと延々探せるのに。

ただし、フランスには面白いマイクロブランドが結構ある。SERICAJacques BianchiLe ForbanAuricosteHorloscapheYema(マイクロといえるか微妙だけど独立系ではある)、そしてBaltic。どこも個性的でカッコいいダイバーを出している。

去年まではいわゆる「一生もの」を探していたので、存在は知りつつも候補には挙がらなかった。出来れば金無垢で自社ムーブで、つまりブレゲがダイバーを出してくれれば終わる話だった。

でも昨年末にその呪縛から解かれてみると、俄然マイクロブランドが魅力的に見えてくる。選び放題。一つ問題があるとすれば、純正の金属ブレスが設定されているものは案外少ないことか。

結局慣れ親しんだSERICAとBaltic、そしていつかは欲しいと思っていたYemaから選ぶことになった。

Baltic Aquascaphe Japan Limited

結果としてBalticのAquascapheを選んだ。

デイト付きの候補が豊富なYemaはすごく魅力的だったけど、ラグの形状が明らかに細腕に優しくない。昔ながらの長いラグでバネ棒の穴の位置も高いから確実にラグ周りが浮く。後日実機を見る機会があったので確かめてみたら39mmのものでもやっぱりちょっと浮いていた。

SERICAは今も欲しいし多分買う。ただ、デザインの個性が強いので、ある程度使うと飽きが来る可能性がある。国内展開が全くないので実機を見られないのが痛い。

そしてBaltic。
結局これを選んだ。YemaとSERICAがダメだから消去法で選んだ。最初は。でも、使っていくうちにこの時計の持つ魅力にどんどん気づかされていく。ゆっくりと花のつぼみが開くように、一つ一つ美点たちが姿を現す。俗に言う「噛めば噛むほど味が出る」パターン。

以下に自分が発見した美点を書いてみたいと思う。サンドイッチ文字盤を採用しているとか、公式サイトで謳われているアピールポイントについては特に触れない。

良いところ

1 文字盤の深さが意外と浅い

Aquascapheの存在は知っていたもののレギュラーラインにはあまり惹かれていなかった。ベゼルの目盛りが5分おきなのと、写真で見ると文字盤が深く沈んで見えるところが自分の好みと少しズレる。

そんなわけで候補としては3番目だったAquascapheだけど、ある日輸入代理店H.M.S.Watch Storeのサイトを未練がましく見ていたら発見してしまった。

ショップ別注のグレーダイヤル。

濃淡はあれどグレーでベゼル・文字盤・ケース側面が統一性を保持しているため落ち込みを感じない。深さはレギュラーも別注も同様だと思うので、多分全体のデザインから来る印象の違いだろうけど、とても上手く処理している。

ドームサファイアなので写真で見るとどうしても落ちくぼんで見えるかもしれない。でも、実物は十分許容範囲。

2 ベゼル全周に目盛りがある

これも素晴らしい改変。ノーマルは5分おき。この別注は全周一分間隔で目盛りが入っている。おかげでヴィンテージっぽさの「過剰」が抑えられている気がする。自分の使い方にも合っているので言うことなし。

ベゼルはサファイアでコーティングされている。フィフティファゾムスのように盛り上がっているわけではなく、あくまでさり気なく。ここもいい。

他にベゼル関係で言えば、ベゼルの縁がケースより張り出していて回しやすい。自分は回転ベゼルを多用するので回しやすさは結構重要視している。

ちなみに120クリック。

3 コンパクト

驚いたのがサイズ感。

直径39mmでなおかつ厚さ13mm(ガラス込みで)と、小さく薄い。非常に使いやすいサイズに仕上がっていると思う。縦も47mm、自分の16cmの腕でも十分収まる長さだった。
ラグ穴がかなり下に付いていてブレスも真下にしっかり落ちるため、ラグ周りが浮き上がることもない。

かなりドレス寄りのタンブールから着けかえてもそこまで違和感がない。確かにツールウォッチ感はでる。でも、「ダイバーを着けている」意識は薄い。

4 ライスブレスが完璧に合う

Balticは元々ブレスやベルトの交換には寛大なブランドで、純正金属ブレス、レザーストラップ、ラバーストラップのすべてにワンタッチクリック(アピエ)を備えている。さらにラインナップは全てラグ幅20mmと社外品も使いやすいサイズ。

この純正ライスブレスはラグ部20mmからバックル部18mmへテーパードする形状で、コマはネジではなくピンで結合するタイプ。
もともとMR01を買ったときに一緒に買ったものだけど、正直あまりマッチしなかった。MR01は本体が軽いので、結構しっかりしたスポーツ寄りのこのブレスと合わせるとバランスが悪い。

ただ、Aquascapheには完璧。デザインも重量バランスもとにかく最高。
というかこれ、本来Aquascaphe用に作られたものだと思う。

このJapan Limitedの純正はトロピックラバーストラップだけど、買った瞬間からライスブレスを付けてずっとそのまま。トロピックは試してもいない。ストラップ交換が大好きな自分としては大変珍しく、この組み合わせを心底気に入っている。

5 実機を見て買える

実はこれが最大のストロングポイントかもしれない。候補に挙げたYema、SERICA、Balticのうち、Balticだけが国内(とはいえ関東近辺だけだけど)で実機を見ることができた。

ある程度の価格帯以下のマイクロブランドだと、ケースとムーブメント、風防は大体汎用品(か、それを改造したもの)の組み合わせになる。一からデザインを起こしてそれに合わせてパーツを作るというよりも、元から存在するパーツをいかに上手く組み合わせるかの勝負。お陰で金額が抑えられてありがたい。一方で、実機は宣伝写真と全然違う、みたいなことが起こる場合もある。

特に文字盤の深さあたりは宣伝写真では巧妙に処理されているものが多い。あえて分かりづらい角度で写されていたり、光の反射で隠されていたり。

自分はSERICAを2本実機を見ずに買ったけど、開封するときは「どうかまともなクリアランスとケース質感でありますように!」と天に祈る気持ちだったのを覚えている。ちなみにSERICAは良かった。

Balticに関しては店頭でじっくり細部まで観察した上で買えるので安心感が違う。この時計もあらゆる角度から文字盤周りをのぞき込んで満足して買った。

良くないところ

上述した「良いところ」も「良くないところ」も、あくまで自分の好みを基準にしているので客観性は全くない。その前提の上でよくないところ。

1.日付がついていない

これは日付嫌いの人にとってはむしろ長所だと思う。ただ、自分は日付が大好きなので残念。兄弟機のGMTのように6時位置にでも入れてくれば完璧だった。以上!

2 デザインの独自性が弱い

比較検討の対象としたYemaやSERICAに比べてデザインに特徴がない。

例えばSERICAならあのアワーマーカーの配置を見ただけでSERICAと分かるし、Yemaなら(実用性はないと思うけど)3時位置のベゼルロックと細長いラグ、(細腕には合わない)スケールブレスでそれと分かる。

対してAquascapheにはそれがない。ごく普通の回転ベゼル付きダイバー。デザインのテイスト的に「どこかのヴィンテージかな?」と思われることはあっても、一目見て「Balticだ!」とはならない。

これがウィークポイントなのかどうか、正直よく分からない。

アイコニックなデザインは飽きを生みがちだし、時が経てば「ダサさ」に転化する可能性もある。だから、変な色気を出さないBalticの決断は実は非凡なことなのかもしれない。

ただ、今後Balticが価格帯を上げてメジャーになっていこうとするならば、なんらかのアイコンが必要な気がする。

まとめ

良いところがたくさんある一方で、良くないところは2つだけ。こうして文章にしてみて、総体的にかなり気に入っていることを自覚した。

デザインその他は同じでいいので、日付をつけてムーブのグレードをもう少し上げたバージョンを30万くらいで出してくれたら多分もう一本買ってしまう。

現在自分はBalticを3本所有している。そして今後も何本か買うつもり。ブランド自体への好意もあるけど、それ以上に「モノとしての安心感」がとにかく素晴らしい。

日夜インスタでフランスのマイクロブランドを漁っていると、正直「あー、まぁその…」と思うようなものがいっぱいある。よりストレートに言えば7割くらいはそれ。
入手困難で高価な有名時計にかなり寄せたケースとブレスだったり、あるいは独自性を出すことだけに注力した結果バランスがメチャクチャの奇妙なデザインだったり。

そんな玉石混淆の中でBalticの中庸さは光る。
ヴィンテージウォッチをデザインソースにしているから安定するのかとも思う。でも、同じようなアプローチのマイクロブランドは他にもたくさんある。そんな中で一際目を惹くのは一体なぜなのか自分にはよく分からない。
アイコニックなデザインを無理矢理にでも挿入したいという誘惑に屈しない自制心か? 

新しく展開されたエルメティックやプリズムシリーズではブランドアイコンをより強く打ち出す方向性になってきているので、今後どうなるか分からないけど、一ファンとしては適度な中庸を保ち続けて欲しいと願っている。

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