バルティックを知ったのは数年前、きっかけは例に漏れずマイクロローターのMR01だった。
文字盤に力を注いだ小径のドレスウォッチ。インスタで写真を流し見て、マイクロローター・ホワイトゴールドで200万くらいかと思ったら、なんとステンレスで10万を切っていて驚いた。
話題性から品薄続きでなかなか買えず、流行が落ち着いた去年、やっと手に入れた。正直それまで細かいスペックを調べていなかったので、会計後に文字盤がヘサライトと知りちょっとガッカリしたのを覚えている。
その後頻繁に使っていたかと言われればそうでもない。本体重量の軽さとステンレスの質感に満足がいかず(価格を考えれば当然だけど)、時折思い出したように着けてはダイヤルのピンクゴールド色を楽しむ。つまり観賞用の時計だった。
Baltic MR01
すごく気に入っていたわけではないMR01のあとに、なぜ似たような方向性のBicompax、しかもほぼ同じ文字盤色を買ったのか書いていきたい。
サイズ
Bicompaxシリーズは2017年のBalticブランド立ち上げ時、最初に出たシリーズの一つ。
001は現在カタログ落ちして改良版の002が現行品になっている。001、002はケースサイズが同じ38mm。これでも新品で手に入るクロノグラフとしては結構小さい方に入る。
そこにさらにだめ押しの003が出た。脅威の36mm径。縦の長さは46mm。厚さは風防まで含めて13.5mm。
ケース径が小さいお陰でラグ長をある程度とっても全長がそこまで長くならない。結果として伸びやかなプロポーションを実現している。
ラグ幅はBalticの他のシリーズと同様20mmなので、設定されている純正金属ブレス・レザーストラップ・ラバーストラップは全て付けることが出来る。Aquascapheのときも書いたけど、Balticのこの姿勢はとてもありがたい。
ムーブメント
ムーブメントは中国製(Seagull ST1901)の手巻き2カウンタークロノグラフ。
調べてみるとかなり昔のスイスムーブ(Venus Cal.175)を中国が製造機械ごと買って作ったものが元になっているらしい。
手巻きの感触は重めで快感は期待できない。手持ちの時計だとオメガの321と似ている。あれも重い。リューズが大きいので巻きやすいのはよい。
一つ気になるのは時間を合わせるためにリューズを一段引き出したとき。クリック感が無く、ちゃんと引き出せているのか不安になる。この感じはKeltonのJungleと同じ。MR01はそんなことはないので中華ムーブだからというわけではなさそう。個体差か。
クロノグラフのスタートストップボタンは比較的軽いけどまぁ普通。ただしリセットボタンは超絶軽い。不安になる軽さ。驚いた。
それはそれとして、特筆したいのはぎりぎりまでサイズを詰めたケース。
ケースいっぱいいっぱいまでぎっしり詰め込まれているこの感じがたまらなくカッコいい。
この時計を買うときに同時に002も見せてもらったけど、あちらはムーブの周りにしっかり余白がある「普通のクロノ」といった感じ。
一方003は実物を見るとその凝縮感に感動する。
ケースと風防
ベゼルを多段にして厚みを感じさせない工夫がある。
数字上は13mmだけど体感はもう少し薄い。風防だけが柔らかく盛り上がっている10mm厚の時計といった印象。
おもしろいのがラグ先端部の処理(写真赤丸部)。
内から外に向かって微妙に斜めに削られている。この処理によって、真正面からだとほんのちょっとだけ「ハの字」に見えてラグ幅が実寸の20mmよりも長く感じられる。
結果として、小さい時計の割には男性的あるいは無骨な印象を与える仕掛けになっている。
風防と裏蓋はMR01と同じくヘサライト。
自分の好みとしては5万程度金額が上がってもいいからサファイアにして欲しかった。ただ、ヘサライトの軽さが快適な装着感に繋がっている部分もあると思うので難しいところ。
MR01は自分の感覚では軽すぎて、ちょっと安っぽい印象を受けたけど、Bicompaxはクロノゆえに元々ある程度重さがあるからか、ヘサライトでちょうど良く収まっている。
文字盤
文字盤は全面金色。アプライドのアワーマーカーも12と6の数字も、針も、すべて金色。
光の加減でピンクっぽく見える瞬間もあるけど、ほぼゴールド。
ヘアラインと梨地で各部位の仕上げを変えているので視認性はある。ほんのりある。かろうじてある。
ただ、視認性を重視する傾向が強い自分でも、この時計に関しては他の色を入れずに金で統一して正解だったと思う。とにかくカッコいい。
光の当たり方次第で多彩な表情を見せてくれるこのダイヤルは、ヴィトンのタンブールと同じく文字盤を眺める楽しさを与えてくれる。
ストラップ
買う前はフラットリンクブレスを付けようと思っていた。華奢なフラットリンクはMR01やBicompaxのような小さい時計によく似合う。
でも、数週間を経た現在は、初期設定の黒いレザーストラップが最良と感じられる。
黒いストラップに金の文字盤。黒と金はとてもよく合う。この時計に関してはとても「上品に」合う。
ストラップ自体はごく普通のサフィアーノレザー。
ラグ部20mm、尾錠部16mmとドレス系の定番サイズ。
12時側の長さは75mm、6時側は115mm。ケースに一番近い穴までの距離は45mmなので、ある程度細腕でも無理なく対応可能な長さになっている。
Balticおなじみのクイックチェンジ(アピエ)がついている。
まとめ
結論。買うべき。
MR01にしろAquascapheにしろ、それぞれ美点はあるものの、探せば似たような時計は他のブランドでも結構ある。好みで選べばいい。
このBicompax003はない。これしかない。
軍用かレース由来のものなら色々出ている。選り取り見取り。特にマイクロブランドなら小さめのやつもある。ただ、小さいといっても39mmくらいがほとんど。
これがメジャーどころになると40mmからスタートになる。自社ムーブの制約が大きいんだろう。それでもあえて目指すなら金無垢で700〜800万くらいの予算を用意しなければならない。
ヴィンテージに行けばこのサイズはたくさんあるだろうけど、自分のような素人には60年前、70年前のもの、しかもクロノグラフとかまったく目利きできない。さらにクロノを多用する身としては実用に不安が残る。
そんな中、軍用でもレース系でもなく、手巻きで36mmの時計が現行品で10万円で売っている。しかも5気圧防水。5気圧は眉唾物として、少なくとも夏の汗くらいなら耐えられそう。
買うしかない。
買った。